領域代表の挨拶
宇宙を調べる手段としてのニュートリノの現実性に懐疑的な雰囲気があった苦しい時代を経て、高エネルギーニュートリノ宇宙物理学が立ち上がり多くの先駆的な成果が絶え間なくでてくる – その渦中にいたために、リスクをとり新しい可能性に賭けて、誰も見たことのないフロンティアに立つことの素晴らしさを私は体験してきました。この息吹を、自然科学のなかで最も伝統がある分野である天文学研究にも吹かせたい。天文学研究のメインストリームである電磁波観測と、高エネルギーニュートリノや重力波という新参者が手を組んで、全く新しい宇宙物理学・天文学研究を開拓する。それが私の夢であり、この領域の目標です。宇宙からの手紙を全て読み解く「マルチメッセンジャー宇宙物理学」分野を日本で立ち上げ、世界を先導する成果をあげることを目指しています。
世界を先導する、と申し上げましたが、それは決して簡単なことではありません。マルチメッセンジャー観測手法の有効性は国を問わず世界の研究者が認識しています。当然、競争が始まっています。一方で、多くの観測チームの国際的な協力が今の宇宙研究には不可欠であり、世界のネットワークの中で我々日本チームが積極的に協力し、大きな成果を国際的な枠組みのなかで導出していく。井の中の蛙にならず、外向きに研究を進める。競争もするけれど、大きな成果のために国を超えて協力する。本領域研究では、こうした姿勢をとり続けていきたいと考えています。
また、有機的な連携研究は幅広い知識とオープンマインドが大切です。学ぶべきこともたくさんあります。マルチメッセンジャー宇宙物理学に真の専門家はまだいない、といってもいいでしょう。領域メンバーとともに一緒に成長し、共に学んで、分野の垣根を乗り越えた新しいコミュニティーを作り上げることが私達の最終的なゴールです。
吉田滋